はるか昔の中国の話。美しい女性の姿に化けた九本の尾を持つ神獣「九尾の狐」がいました。その狐の傍らには常に白い蛇が寄り添って、ともに特別な力を持ち人間に幸せをもたらす存在でした。しかし、その力と美しさに対する人間からの妬みつらみから、九尾の狐はひどい仕打ちをうけ追いやられてしまいました。
中国、インド、そして日本に渡り人間の姿に化けた九尾の狐は、子どもに恵まれない夫婦のもとで「みくずめ」と名付けられ、元気いっぱいに育ちました。人間たちの愛情で美しい姿に成長したみくずめが宮中に入り鳥羽上皇に仕えると、「玉藻御前(たまもごぜん)」と呼ばれるようになり、鳥羽上皇に寵愛され幸せな日々を送りました。
ところが、玉藻御前を羨む宮中の女性たちからの嫉妬その行動は後を絶ちません。過去より、そのような人間の身勝手な感情にとうとう玉藻御前は冷静さを失って、怒りの姿「黒妖姫(こくようき)」となり鳥羽上皇の生気をすべて抜き取ろうとしました。
弱っていく鳥羽上皇を心配した家臣たちは、占い師の陰陽師に相談しました。陰陽師の力によって黒妖姫の仕業であると見破られ、黒妖姫は家臣たちの矢、陰陽師が念を込めた幣束の矢で射抜かれてしまいました。黒妖姫は苦しみ悶え逃げるも、1枚の青い幣束がそのあとを追うように飛んでいきました。目を矢で潰された白蛇も一緒に…。
それから数百年後、那須野ヶ原の地で、巨大な毒石が、近づく人間や動物たちの命を奪う話が日本全国に広まっていました。その毒石の正体こそ黒妖姫そのものの姿『殺生石』です。那須野ヶ原の地でも怒り狂い、長きにわたり邪気と毒ガスを出し続けましたが、そこに1人の和尚が訪れ一心に大乗経をあげ続けました。
これまでの怨み憎しみ、苦しく辛いものであっただろう。しかし争いは何も生まぬ。恨むことなく安らかに生きよ。
いにしえより人に幸せをもたらす九尾の狐の心を取り戻し、人を信じて守り神として生きよ。
すると、殺生石は穏やかな玉藻御前の姿に変わりつつありました。その瞬間、和尚は大きな金槌を振りおろし石を打ち砕きましたが、割れ飛び散った石とともに、静かに二頭の姿が現れました。
わらわの名は、九尾の狐、玉藻御前
人間たちの恩恵を大事とし、慈悲の心で守り神となり世に生きようぞ。我が額に光る祓いの青をその約束の証とす
わらわの名は、九尾の狐、黒妖姫
人間の闇知りて我が力を誇りとし、不動の心で神となり世に生きようぞ。この赤き心眼こそ絶対的な力の証とす
一つの強大な力が実体化した二つとなり何かの前触れと感じた和尚は、自分の左目を抜き、その目玉で一頭の狐をつくりました。
ワタシのなまえは、九尾の狐、小玉
たのしいこと、おいしいものがだいすき
額のハートは愛と調和の証だよ
自分の身体の一部を、九尾の狐が愛情いっぱいに育った未成年期の姿「小玉(こたま)」として見張りとするも、和尚がどうしても気になることが一つ。飛び散った殺生石の一つがここに残ったこと。なおも邪気と毒ガスがでていること。
それから程なくして2022年3月、殺生石が真っ二つに割れました。これは善いことが起きるしるしなのか、それとも悪い兆しなのか。知る人ぞ知る、その割れた石から目に傷を負った小さな白蛇がでてきたことを。
時がきた、開かれし我が蛇の目がまことの証
人間の不安、迷い、悲しみを食し怨み辛みをはらそうぞ
新たな封印が解かれた今
相対する二頭の狐もまた、運命を拓く時がきた。
信じて、前へ
那須野ヶ原そして
子供たちの輝く未来のために