はるか昔、人間を愛し、その知恵と美しさで国を繁栄させた瑞獣『九尾の狐』がいました。しかし、豊かになった人間たちは狐の強大な力と不老不死の美しさを恐れ、嫉妬し、化け物として迫害するようになります。深く傷ついた狐は各地を逃れ、やがて日本へと渡りました。
子どもの姿で日本に渡った九尾の狐は、やがて輝くほど美しく成長します。宮中に入るとその美しさと聡明さで帝から深い寵愛を受け、穏やかな日々を送りました。しかし、その幸福を羨む周囲からの嫉妬や悪意は後を絶ちません。かつて異国で受けた迫害、そして再び向けられる人間の身勝手な感情に、狐の清らかな白い心は、ついに悲しみと怒りで限界を迎えます。
激しい絶望から、狐のなかに眠る禍々しい黒い心が呼び覚まされ、その妖力で帝の生気を吸い尽くそうとしていました。弱っていく帝を心配した家臣たちは、強大な術師である陰陽師「安倍泰成(あべのやすなり)」に助けを求めます。泰成によって正体を見破られた狐は、必死の思いで東の空へと逃げ去っていきました。
都から下野国(栃木県)北地域『那須野ヶ原』に逃げた九尾の狐は、様々な姿に化けて人々を惑わし、身を隠していました。しかしついに正体を見破られ、朝廷から狐退治の命を受けた弓の名手、上総介広常(かずさのすけひろつね)と三浦介義明(みうらのすけよしあき)によって射止められました。ところが討ち取られてなお、その執念が潰えることはありませんでした。

討たれた狐の凄まじい怨念は、巨大な毒石『殺生石』へと姿を変えました。
しかし、その怨念に立ち向かった名僧『源翁和尚(げんのうおしょう)』は、命を削るほどの厳かな祈りで荒ぶる狐の心を鎮めます。和尚が渾身の法力を込めて杖を振り下ろすと、石は三つに割れて各地へと飛散し、その一つが現在の那須湯本温泉に残る殺生石となりました。
怨念はこうして清らかな魂へと昇華したのです。和尚はひとまず安堵したものの、なおも残る不穏な気配を優しく包み込み、この地を誰もが仲良く暮らせる場所にしたいと願いました。そこで、尊き力を尽くし、みんなを笑顔にする元気印の一頭の狐『小玉(こたま)』を生み出したのです。
それから長い年月が流れた2022年3月、殺生石が真っ二つに割れ、九尾の狐の魂がふたたび現世に姿を現しました。
かつて人々を苦しめた妖狐は、今、神の心を取り戻した白面の『玉藻御前』と黒面の『黒妖姫』となり、故郷を守る御神体となりました。 災いの「あやかし」から、喜びをもたらす「吉祥の象徴」へ――。
過去の苦難や歩みをすべて糧に変え、「自分を信じて、心を前へ」と進み続ける2頭の狐。未来を明るく照らす守り神として、愛する地域と子どもたちの幸せを、今日も、静かに見守っています。

